・今回のモデルさん
今回は、モデルさんがポーズ中に体調が悪くなり、途中で交替することになりました。
当初の予定は祭りの法被姿の女性でした。前日に卒業式があったばかりという高校3年生で、モデル経験は初めて。法被姿の勇壮さと女子らしさとを併せ持った姿がテーマでした。
その勇壮さが手伝うのか、真っすぐ前を見据えた時の目の印象が奈良の興福寺の阿修羅像の目を彷彿とさせました。周知の通り阿修羅像は常に人気ランキングで上位に登場する仏像です。実際には、まるでその妹であるかのように、もう少し優しくて女子らしくした感じなのですが、どことなく似ていて大変魅力的でした。
その上、ご本人所有の法被一式が見るからに色や柄や素材に趣があり、本格仕立てのもののようでした。聞けば祭囃子の団体に参加経験があるとのことです。やや淡い藍色の法被の襟元に覗かせた伝統味豊かな和柄の鯉口シャツがとても鯔背で、また股引も鯉口と同じ柄で、相当ベテランのお祭り男が着ていても不思議でないものに映りました。
同様に、帯や足袋や草履や鉢巻の、どれを取っても伝統味豊かで鯔背な和風のデザインでした。鉢巻だけは、小さめの冠状のものをちょこんと頭に載せてピン留めしていて、身に着けていたものの中で唯一女子らしい印象を与えていて、そのコーディネートのセンスには唸らされるばかりでした。
こうした法被一式を身に付けた姿が本格的であればあるほど、益々18歳の女子らしさとのギャップが際立ち、一種の眩いばかりの「美」が立ち現れてくるのを感じます。
ポーズ決めの為のクロッキーの立ち2種、イス2種では、全て法被姿を活かした堂々としたものでした。どれもご本人の提案がベースになっておりますが、素晴らしかったので列記しておきます。立ちでは、股をやや開き気味にし、両足重心にして立ち、緩い拳を作った両手を降ろした仁王立ちに近いポーズが一つ、もう一つは一歩脚を前に出して帯の前方に両手を掛けたポーズ。イス座りでは、股を男性的に大きく開き気味にして座り、緩い拳にした両手の甲を上にして両膝の上に置くポーズが一つ、もう一つは股を開いたまま右脚を少し前に出しつつ右手は膝の上、左手は法被の襟元を掴むポーズでした。
どのポーズでも真っすぐ前を見据えていて目元が凛々しい上に、法被姿とマッチした勇壮な姿になっておりました。それでいて顔や身体自体は無邪気と言ってよいくらいの18歳の女子そのものです。モデルさんからすれば与り知らないことでしょうが、このギャップこそが魅力的この上ないものでした。
多数決で決定されたのは、一歩脚を前に出して帯の前方に両手を掛けて立ち、真っすぐ前を見据えたポーズでした。衣装にしてもポーズにしても大変センスのあるモデルさんで、感謝のかぎりでした。
そして冒頭に記した通り、固定が決まって2回目の20分ポーズの途中で体調が悪くなってリタイアとなってしまいました。後で尋ねると、睡眠、食事等の体調管理自体はきちんとしていたとのことです。断定はできませんが、気合いを入れ過ぎて酷く緊張してしまったようです。今回の場合、若くてデリケートな上にモデル経験が初めてで、精神的緊張が大きかったことが原因のようであり、未然に防ぎようがないケースだったと考えられます。
稀なケースに遭遇することとなりましたが、初めてのモデルさんは未経験から生じるリスクを抱えている一方で、初々しさや健気さや一生懸命さなどの得難い特有の魅力が多々あります。デリケートであることは感受性が豊かという魅力的な捉え方もできる訳です。むしろ貴重です。それを享受していく以上は、ある程度のリスクを負うのは仕方のないことと言えましょう。しかも誰でも皆、「初めて」は必ず通らなければならない関門で、実際に経験してみないと自分に適しているかどうか分からない側面もある訳です。
幸いにも参加者の皆さんが寛容で、とても理解を示して下さいました。モデルさんも帰り際に申し訳なさそうにして、きちんと謝っており、その気持ちは皆さんに十分伝わっていたと思います。なおその後、体調は元気に回復されたとのことです。
さて、そんな訳でモデルが交替となりました。もちろん、他に正式なモデルはいません。不肖、筆者が急遽モデルをすることになってしまいました。突然ですし、時間もないので、決め打ちでイス座りの楽な姿勢のポーズにさせて頂きました。20分×5回を行い、残りの休憩時間を全て短縮させ、なんとか形にすることができました。
元より当会は老若男女の様々なモデルを依頼することを特色にしているのですが、さすがに18歳の女性からいきなり、むさ苦しいオッサンにモデルがチェンジするのは、ギャップが激し過ぎて参加者は内心さぞかし閉口されたことと思います。皆様方には大変お気の毒様でしたが、偏にご理解をお願い申し上げる次第であります。
・実施状況
筆者自身のこととなりますが、今回という今回は、慌ただしさ、この上ありませんでした。
いつも通り会場設営や各種準備に始まり、今回新入会の2名への手引きを行い、世話係として各種運営や司会進行を行い、休憩中の空いた時間に初心者・希望者向けの指導・感想も行った上で、今回は、モデルのリタイアが発生してケアをし、その後、自らモデルを担当するという訳でした。
ただし、時間にすれば約3時間半だけのことです。何かと神経は使いますが、せいぜいプチ過労とでも呼ぶべき程度のもので、もちろん、心配もありません。
さて、描かれた筆者の絵を見て指導するというのも何か不思議な感覚ですし、参加者の側も、モデルを描き、そのモデル本人から描いた絵についての指導を受けるという不思議な感覚になられたのではと思います。ただし実際は、休憩時間が変則的に短くなったので、残念ながら、今回は指導も感想もほとんど行うことはできませんでした。
モデルリタイアのハプニングがあったにもかかわらず、皆さん落ち着いていて、概ね1枚の絵を描ききっておられるようでした。
折角ですからモデルを行なった感想を記しておきます。
描く側を長年経験してきて、どうしたら楽にポーズを維持できるかを知ってしまっている為、また、筆者の場合は厚かましい性格なのか余り緊張もしませんでしたので、実は特に難しいことはありませんでした。むしろ心地良い緊張があって1回20分間があっという間に感じられました。じっとしていてエネルギーを消費しないので、休憩時間には動き回りたくなるほどでした。ただし、もっと維持の難しいポーズを行った場合ならば、やはり大変だと想像されます。
当然のことですが、モデルというのは向き不向きがあるのだということがよく分かります。大勢の人の目に晒されることが大丈夫か否かに、その分岐点があるのかも知れません。
それにしても、結果的に大変貴重な体験をさせて頂きました。
デッサン会の予告
◆2017年 第4回 デッサン会の予告
2017年第4回は、4月16日(日)午後1時集合、1時半開始、4時半終了です。
モデルは81歳で日常の服装姿の女性で、イスに座った固定ポーズです。
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